護身道と企業経営など関係がないではないかという気がする人が多かろう。
一方は武道だし、他方はビジネスだし、まるで違っているというのが普通の意見であろう。
しかし、護身道を自分でやっていけばいくほど、このまったく異質なものと思われる二つのことの同質性の方がきわだってくる。
もちろん異質性の部分もたくさんあり、その方にだけ目がゆくと、この二つはまったく違ったもので、お互いに関係がないと見えてしまうのである。
しかし物事は、異質性もあり、同質性もある。
どちらが主流であるかをみきわめねばならぬ。
ところが案外、あまりにも当たり前で、特にとりたてて言うほどのこともないというような本質的方面は見落とされて、特異性であり、主流でなくて支流なのであるが、目立つ方に気をとられ、部分であり支流である特異性が主流であり、全体であるかのように見えてしまうのものである。
空気の中で生活していると空気の存在は目に入らないようなものである。
企業経営というと、ふつうにはバランスシートとか、販売方法とか、工場や製品の管理とか、主として企業の中の物と金の動きをどうするかということで考えられているようである。
QCはじめ、いろいろの経営学、経営管理の方法とか、いわゆる経済学といった類もほとんどが物と金をどう動かすかでやっているようである。
こちらから見ていると護身道といった武道とは、何の関わり合いももっていないとしか見えまい。
しかし、企業経営とは、実際の動きからいうと人間の動きなのであり、どういう人間とどういう関係をつくるかという人間関係形成の活動なのである。
企業の従業員との関係、お客という人間との関係、仕入先の人間との関係、納入先の人間との関係、銀行等の金融機関の人間との関係、運輸会社の人間との関係、保険会社の人間との関係、あらゆる関係先の人間との間に交渉がもたれ、約束がとりかわされ、その結果として物が動き、金が動くのである。
こういう人間と人間との関係がつくられなければ、物や金が自分で勝手に動くものではない。
物や金の動きとは、人間と人間の関係がつくられた結果なのである。
人と人との関係関係をつくるのは、口と手と足を動かすより他はない。
他の方法はないのである。
足を動かして相手に会いに行き、手を動かして書類をつくり、ドアを開け、電車のキップを買い、タクシーの代金を払い、口を動かして相手に説明をする。
そうやって売るなり、買うなり、借りるなり、貸すなり、上司に報告するなり、されるなりして、こうしようという約束をし、その約束を、やはり、口と手と足を動かして実行し、実現していく。
これが企業活動の実体であり、それ以外にはやりようもない。
護身道という武道も、手と足と口を動かすことで実現される。
手や足を動かすことで、胴や胸が空間を移動することになる。
教えたり、教えられたりする時には、口を動かし、動作を説明するが、それを実現してゆくのはあくまで手と足を動かさねばならぬ。
それ以外にはできない。口でとなえる呪文で相手がひっくりかえるわけではない。
こうしてみてくると、企業経営も手と足と口を動かして実現し、武道も、手と足と口を動かして実現する。
つまり両者はその実現の実態においては、まったく同質性であり、共通性が主流となっているわけである。
本質が同質であるから、護身道の手と足と口の動かし方が企業経営の手と足と口の動かし方にそのまま参考にしてよい点が出てきてもべつに不思議はないのである。
〜城野宏論文集より〜 |
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